イギリス南西部に位置するドーセット州のランガムは、2009年に現当主ジャスティン・ランガムによって創設された家族経営のワイナリーである。その始まりは、父が趣味で営んでいた畑を引き継いだことにあるが、現在では約34ヘクタールへと広がり、 シャンパーニュ顔負けの品質で世界的な評論家を驚かせている。この劇的な飛躍の鍵となったのが、2018年に21歳という若さで参画した醸造家、トミー・グリムショーの存在だ。気鋭の若き才能である彼が醸造責任者に就任して以来、従来のやり方を見直し、介入を最小限に抑えたワイン造りへとシフトした。その結果、ワインの品質はみるみるうちに向上し、今やイギリスワイン界で最も目が離せない存在となっている。


この偉業を根底から支えているのが、テロワールを誠実に表現するワインを生み出したいという哲学である。彼らの畑には、シャンパーニュのコート・デ・ブラン地区と同じ、ベレムナイトを含む密度の高いチョーク質土壌が広がっている。この土地の個性を引き出すため、畑では極めて丁寧なブドウ栽培を行い、セラーでは徹底した低介入なワイン造りが実践されている。イギリス沿岸部は雨が多く病害リスクが高いエリアだが、病害が発生してから対処するのではなく、定期的な剪定や摘葉により風通しを良くし、更には、カバークロップの導入することで土壌中の余分な水分を調整している。驚くべきことに、剪定から手摘みでの収穫に至るまで、年間を通じて施される手作業の回数は実に50万回を超え、この回数はもちろん畑の広さに比例して多くなるが、いかに地道な積み重ねを行っているかがうかがえる。
醸造においては、最小限の介入によるアプローチが徹底されている。手で収穫されたブドウは、空気圧プレス機で房ごと優しく圧搾される。多くの生産者が繊細な果汁を酸化から守ろうと亜硫酸などを添加する中、彼らはあえて添加をせず、適度な酸化を促すアプローチを採る。これにより、後の工程における酸化に対するワインの安定性を高めることができ、且つ、ナッツやドライフルーツのニュアンス、柔らかいテクスチャーを引き出せる。一次発酵には自然酵母を用い、その後の清澄や濾過は行わない。さらにドサージュや亜硫酸の添加も必要最小限に抑え、テロワールの個性をありのままに映し出すワイン造りを貫いている。


こうした自然酵母による発酵や無清澄・無濾過といった手法は、ジャック・セロスらシャンパーニュの小規模生産者に強い影響を受けたグリムショー渾身のこだわりである。そのひたむきなワイン造りが実を結び、世界で最も歴史ある酒類品評会「IWSC」において、レア・シャンパーニュやマム、ガズボーンといった名だたる名門を抑え、2020年と2025年の二度にわたり「スパークリング・ワイン・プロデューサー・オブ・ザ・イヤー」に輝く歴史的快挙を達成した。 世界的なワイン評論家ジャンシス・ロビンソン氏からも「まさにセロスを思わせる」と絶賛され、ミシュラン三ツ星であるイギリスの「The Ledbury」や「The Fat Duck」、ノルウェーの「RE-NAA」をはじめとする名門レストランでこぞって採用されている。ランガムは、まさに今世界中が熱狂するイギリス最高峰の生産者である。

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