シチリア州は地中海最大の島であり、その広大な土地には多彩なテロワールが眠っている上に土着品種の宝庫であるため、ひとえに「シチリアワイン」と言っても一括りには出来ない奥深さがあるが、その表現に早くから取り組み成功を収めたのがこのBaglio di Pianettoである。このワイナリーはシチリアが世界的に大きな注目を浴び始めるよりも前の1997年に、元フェラーリのプロレーシングドライバーという異色の経歴を持つオーナー、パオロ・マルツォット伯爵によって設立された。彼はドライバーを引退後、イタリア各地のワイナリーにて研鑽を積み、そのキャリアの中ではアメリカ市場で最も多く販売されている白ワインの生産者サンタ・マルゲリータ社の社長を14年も務めるなど豊富な経験を積んでいたが、自らのワイナリーを建設するにあたっては本人が幼い頃から憧れていた、そして何より多彩な個性を持つ土壌と数多くの品種が栽培されているという大いなるポテンシャルを秘めたシチリアに白羽の矢を立てたのである。
このワイナリーを語るにあたって、最も重要かつ特徴的な点は彼らの所有する畑である。島の北西部、シチリアの重要な都市のひとつであるパレルモの程近くにある標高650mで粘土質、比較的冷涼なクリマを持つピアネットの畑と、島の南東部、海に程近いノートの町のそばにある標高50mで石灰の混じる温暖なバローニの畑という土壌構成・標高の大きく異なる2つの畑を所有しているが、これら2つの畑は直線距離にしてなんと約250kmも離れており、通常であれば1つのワイナリーが所有・管理するということはほぼありえないと言えるほど離れているのだ。ただ逆に言えばシチリアの土地の多様性を語るにはもってこいで、最適な品種を適切に栽培することができればバリエーション豊かなワインを生み出す事ができるという事で伯爵はその表現に力を注いだのである。
栽培においては「ワインを愛することは自然を愛すること」という哲学に基づき、ブドウ畑はもちろん所有する土地全てにおいてオーガニック認証を取得するなど抜かりがない。そして同じ品種でも収穫をわざと複数回に分割して行い、酸度や糖度の異なるブドウをブレンドして最適なバランスを取るなど細かな工夫も行なっている。そして極め付けは、醸造及び熟成施設であるセラーを地上1階~地下3階の4階構造という重力だけで醸造〜熟成〜瓶詰めまでのフローを実現できる特注仕様で、それもなんとそれぞれの畑のそばに建設しているのだ。こうしてこのような様々なこだわりから生まれたワイン達は見事に土地と品種の個性をクリーンに、そして伯爵の持っていたシチリア愛を余すところなく表現してくれている。現在は伯爵の甥にあたるグレゴワール・デフォルジュが3代目の当主として、伯爵の愛したシチリアの土地をより鮮やかに表現していくべくたゆまぬ品質向上に努め続けている。