ラングドック地方の中でもとりわけ認知度の高いAOCミネルヴォワ。このAOCの最北東端にカゼルと呼ばれる集落がある。人口およそ30人、平均年齢が65歳というこの辺鄙な土地に一目ぼれをした一組の夫婦がいる。ヴォーヌ・ロマネ屈指の醸造家であるアンヌ・グロとショレイ・レ・ボーヌの名手ドメーヌ・トロ・ボーのジャン・ポール・トロである。醸造学校時代に共通の知人を通して研修先のオーストラリアのワイナリー、ローズマウントで出会った二人は、その後ブルゴーニュに戻ってそれぞれの親からドメーヌを引継ぎ、第一線で活躍する中でパートナーとなるが、それでもお互いのワイナリーに関与することは一切なく、それぞれの仕事に没頭する日々が続く。こうした一方で、二人の中にはお互いに培ってきた知識・経験を共有し力を合わせてワインを造りたいという思いが次第に強くなっていった。「40歳という節目を迎え、何か新しい挑戦がしたくなった。ブルゴーニュでのワイン造りは先代から引き継いだものだったので、自分たちでゼロから何か新しいものを生み出したかった。」というアンヌは、当初南フランスを何度も訪れ、理想とする場所はないかくまなく探し回ったが、なかなか見つからずに苦労したという。そして、ようやく決まったのがブルゴーニュから車で5時間、500kmも遠く離れたカゼルだった。
この地を選んだ理由は、モンターニュ・ノワールと呼ばれる山の麓に位置しながらも地中海の風の影響を受けることができ、かつミネルヴォワで最も標高の高いエリアの一つで、ヴォーヌ・ロマネ村と等しい標高(220m)を持つという土地の優位性に加え、モザイク状に広がる石灰、粘土、砂岩、マールという土壌の多様性があったこと。さらに、ブルゴーニュにはないサンソー、カリニャン、グルナッシュ、シラーとの出会いもこの地に惹かれた理由の一つである。「これらの品種がどういった個性を発揮するのか最初はわからなかった」というアンヌは、土壌のタイプや区画ごとに分けて醸造するということが主流ではないこの地で、当初から分けて醸造・熟成を行うことでこの土地の個性と品種の特性を深く学んでいった。ワイン造りはブルゴーニュと同じ哲学で行っており、栽培はリュット・レゾネ。空気の循環を良くするためキャノピーマネジメントを一段と意識し、ラングドックではあまり一般的でない芽かきも行う。ブドウは全て手で収穫され、100%除梗の後、自然酵母を用いてステンレスタンクで発酵を行う。キュヴェごとにステンレスタンクとフレンチオークバリックを使い分けて熟成。樽はブルゴーニュで使用しているものと同じものを使用しており、区画ごとに醸造したワインをボトリング前にブレンドする。
ラングドックで造っているにもかかわらず重たさや暑苦しさを全く感じさせない二人のワインは、2008年のファーストヴィンテージからジャンシス・ロビンソンに「まるでブルゴーニュを飲んでいるかのよう」と絶賛される。また、WA誌では「南フランスでありながらここまでの果実味と張りが両立するエネルギッシュなワインはめったにない」と太鼓判を押されている。一般的に、この地で造られる高得点のワインは力強さや重さを持つものが多いが、エレガンスや張りといった真逆の要素でここまで高い評価を年々受け続けている生産者は他に例を見ない。ミネルヴォアのカゼルという土地のテロワールを発信し続けてきた彼らであるが、近年この土地に対する理解がより深まったことから、新たな可能性を広げるためにピノノワールやシャルドネをはじめとする新しい品種のリリースを計画している。常に高みを目指しまい進する彼らの今後に、ますます目が離せない。
商品コード:11154E
新しいプロジェクトとして白品種にチャレンジ。風が当たらない東向き0.5haの区画へ植樹。樹齢はまだ若い。非常に複雑な香りを持ち、リンゴ、パイナップル、洋ナシ、甘いスパイス、サンザシが香る。果実の新鮮な風味を保つために、樽での熟成は行わず、デリケートで溌剌とした酸味を楽しむことができる。
商品コード:10123E
カゼル周辺のIGPコート・デュ・ブリアンにある合計3haの畑。標高は220mで砂岩、マール、粘土石灰質土壌。アンヌとジャン・ポール二人が力を合わせて造ったこと、ワインを飲む際に誰かと共有してほしいという意を込めて50/50とした。フレッシュなプラム、スミレやブラックチェリーに、スパイシーなハーブ、微かなミネラル香を感じるアロマ。豊かな果実味に軽やかなタンニン、エレガントで美しい酸が溶け込むミディアムボディー。終始一貫してクリーンで張りがあり、ピュアな果実味は輝かしいフィニッシュへとつながっていく。どんな料理も引き立たせ自然と杯が進む、真のテーブルワイン。
商品コード:10124E
カゼルに南あるレク・デル・ヴィ(オクシタン圏の言葉で生命の水)と呼ばれる2haの区画。標高は220mで粘土石灰質土壌。2008年植樹の若いシラーを使用。名前の由来は区画名とフランス語の水の発音O(オー)を掛け合わせたものから。すみれ、黒系と青系果実、リコリスと胡椒のようなハーブのアロマ。フレッシュでピュアな果実味、クリスタルのようにきらびやかな酸とミネラルを感じる。南向きの畑で育つ若木のシラーとは思えない程焦点が定まっており、エレガントな仕上がり。
商品コード:10200E
カゼルの北東に位置する3haの区画。他の畑は粘土石灰質主体かつ南向きというものが多い中で、ここは砂岩質主体の北西向きの畑であるため、よりフレッシュさとスパイシーさが出る。ブラック・ラズベリー、カシスやペッパー系スパイスにミネラルを感じさせるエネルギッシュなアロマ。土壌・区画ごとに醸造し、品種ごとにステンレスと樽を使い分けて熟成しブレンドされるため、4品種の個性が絶妙に混ざり合い、円熟感とフレッシュさを同時に楽しむことができる。
商品コード:10125E
カゼルの南にある3.1haの畑。標高は220mで南向きの粘土石灰質土壌。石灰岩の比率が非常に高く、畑は一面真っ白。全品種で古樹を使用するが、とりわけカリニャンは1904年から再植樹していない。ブラックベリー、砕けた岩石、土っぽさ、ミネラルを豊かに感じるアロマ。古樹に由来する複雑味・凝縮感と完熟したタンニンが驚くほどシルキーな口当たりを作り、そこにテロワール由来のミネラルが張りをもたらすことで黒果実のニュアンスと幾重にもわたって層を成していく。まさに南の太陽と、地中深くからエネルギーを与えてくれる土壌との魔法のコンビネーションであり、ミネルヴォアのグラン・クリュと呼ぶにふさわしいワイン。
商品コード:11153E
カゼルにある1909年に植樹された1.07haの畑。カリニャンのポテンシャルを体現するワイナリーのトップキュヴェ。フィネスと力強いパワーが共存するワイン 。魅惑的な ラズベリー の風味が軸となり、そこに バニラとスパイスのニュアンスが 複雑な味わいを与えて長い余韻へ。シルキーだが存在感のあるタンニンが長熟への期待を高める。